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〈食と美と健康〉発酵とは:カルピス発酵乳と脳機能~注意力など 

                    

 厳しい暑さの中では、冷たい飲み物で気分をすっきりさせたい。それには、冷茶(水出し緑茶)も良いが、炭酸水などで口内から壮快感を得たいとも思う。多くの清涼飲料が市販されているが、昔から、初恋の味として知られているカルピスを炭酸水で割った飲み物もその一つである。

 スーパーの陳列棚には、「プロバイオテックス」という言葉や、ヨーグルトや発酵乳などで腸内フローラの改善をうたった食品が並べられている。古くは、発酵乳を飲用する地域に長寿者が多いことから、「発酵乳の不老長寿説」が広く知られるようになった。発酵には、主に乳酸菌が関与しており、各企業は、免疫機能の向上や中性脂肪・コレステロール値の低下といった、それぞれの乳酸菌の機能特性を明確にして商品化している。乳酸菌の生理作用については、別に紹介するとして、今回は、暑い時期に好まれるカルピスの認知機能改善作用について、私達の研究を紹介したい。

 まず、発酵乳の脳機能に及ぼす影響に関心を持ち、ラットでの実験を行った。なぜなら、脳の発育速度は出産前後の1か月間が最も高い。その間の胎児の栄養は、出産前は母親の胎内での供給であり、出産後は唯一母乳に頼っている。それ故、脳の発育に母乳は重要な役割を果たしている。そこで、発酵乳と未発酵乳をそれぞれ別のラットに投与し、脳内神経伝達物質を測定した(発酵乳と未発酵乳との違いは、微生物が関与したか否かである)。発酵乳の投与により、脳の各部位でセロトニンやドーパミンの放出が促進されることを観察した。神経伝達物質は脳機能に重要であることから、発酵乳あるいは未発酵乳を与えたラットで、記憶・学習能への影響を調べた。結果、Y字迷路試験にて短期記憶の障害改善作用、新奇物体認識試験にて視覚的認知記憶の向上作用、また、薬物を用いた場合でも空間作業記憶の障害改善作用など、記憶・学習能力の向上を観察した。しかし、動物での記憶試験からだけでは、人に対して脳機能が改善されるかは不確かである。

 そこで、被験者を対象に、研究に用いた発酵乳で商品化されている乳酸菌飲料「カルピス」を用いて、記憶力(即時記憶、短期記憶、空間認知)(アーバンス神経心理テスト)の解析を行った。カルピスを、もの忘れを自覚する45歳から70歳の男女計20名に毎日・朝食前にコップ一杯(200ml)、8週間飲んでもらい、飲み始める前と後にテストをおこない比較した。その結果、飲料の摂取により言語・集中力・短期記憶力、また、総合評価も改善された。その後、発酵乳中のどの成分が機能したかの詳細な研究により、アミノ酸19個からなるペプチドによることが分かり、それを利用した機能性表示食品が開発された。

カルピスの炭酸水に抹茶を少し入れた飲料は、色目からも、また、炭酸からの清涼感で、気分をよりスッキリとさせてくれる。お茶にもプーアル茶や黒茶のような発酵茶があり、それらの機能についても考えてみたい。

静岡県立大学名誉教授
農学博士  横越英彦   著

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