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〈食と美と健康〉栄養とは:営養学から栄養学へ 

日常生活の中で、栄養という言葉を何気なく使っている。例えば、「栄養をつけるために、好き嫌いなく何でも食べなさい」とか。しかし、中国では営養という言葉を使っており、また、ハングル文字の前には韓国でも大韓民国営養学会などと営養の言葉を用いていた。日本でも以前は、営養という言葉であったらしい。

人類の祖先は、身近に存在するもの(植物、動物、微生物)を口にし、進化の過程で、その成分を有効に利用することにより、極めて巧妙な体を作ってきた。強い骨格や柔軟な筋肉を作るため、エネルギーを生み出すため、多くの生理作用を維持するためなど。体に備わっている機能を正常に維持するためには多くの成分が必要であり、単一の栄養素だけでは、補うことができない。一方、新規の合成化合物など、進化の過程で会うことの無かった成分に対しては、体はそれに対応できず、色々な障害を引き起こす。口から摂取することは重要で、そこで、体にとって有益であるかについての選抜が行われている。注射(静脈栄養)や経腸栄養は、ある意味、正常ではないし、食欲は五感による選抜を経ている。

日本では、営養から栄養に変わったらしいので、どんな経緯があったのでしょうか。明治11年の医事新聞に掲載された論文に、「営養官能実験説」と営が用いられている。また、大正2年、後に内務省栄養研究所の初代所長になった佐伯氏は、日新医学に「養理学特に食物の営養価について」と記している。昭和4年には、沢村真著「「営養学」の冒頭に・・・」とある。昭和6年、栄養研究所の所員が作成した「日本食品成分総攬」の序文に、佐伯氏は「栄養」という文字を使用しているが、その際、明治・大正時代の国粋主義的教育者であった杉浦重剛氏から「営では不可、栄を用うべし」といわれたという。

漢字の構成を見てみると、栄は、もともと榮であり上の部分は(ともしび)で下の部分の木との合字であり、よく燃える木を表し、元気や繁栄を意味している。また、養は、上部は羊で下半分は食(人+良)で、羊(食物)を食べて体を養うと解釈される。栄養研究所の発足が大正10年で、その頃、低栄養状態にあった国民の食生活を、「ただ日常の食生活を営み、身体を養うのみでなく、さらに高い栄養状態を願望して、栄える食生活」を意味し、意識的に変更したと考えられる。

「名は体を表す」といわれるが、漢字は英語とは異なり、その意味することを含んでいる。茶の漢字もそう思う。現在の日本人の食生活は一面では栄えすぎ(飽食・インスタントなど)ており、営養と元来の言葉の方が私は好きである。

静岡県立大学名誉教授
農学博士  横越英彦   著

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