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〈食と美と健康〉フレイルとは:宇宙食は老人食? 

 最近、フレイル(frailty の訳語)という言葉をよく耳にするが、一言でいえば「加齢により心身が老い衰えた状態」をさします。スペースシャトルが打ち上げられた30年ほど前は、日本人宇宙飛行士も参加するなどして、ニュースに感動したものですが、最近では、そのわくわく感も失せてきたようにも思います。そこで、フレイルと宇宙飛行士との関係を雑記します。

 大学に入る前、生命の起源についてはオパーリンにより提唱されたコアセルベート説に興味を抱いていた。すなわち、地球の誕生後しばらくして、原始の海が生まれ、その中から低分子の有機化合物が作られ、それらからモヤモヤとした細胞様の物質が誕生したという説です。真偽はともかく、少なくとも海から生物が生まれたことは確かなようです。海中での植物は生きていくために必要な養分を海水から吸収できるため、岩に付着して漂っているだけでよい。その状態は無重力の世界に似ている。同じことが動物にも当てはまる。人間の祖先は魚であり、水中で動いていた時には海藻と同じ状態であった(子宮内の胎児と類似)。しかし、陸に上がることで(出産)、重力と闘い、体を支えるための足腰・背骨が発達し、食物を探し求め捕獲する必要から、手肢の発達があった。進化を見ると、個体発生は系統発生を繰り返す。

我々の体は1Gという重力に極めて良く適応しており、適応していない形態や代謝系は衰退した。もしこの重力という要素を取り除いたらどうなるか(寝たきりや無重力下)?重力に適応していたものが消失し、逆に身体に元々備わっていた潜在的な代謝系が顔を出したりしないだろうか?

 宇宙飛行士の筋肉は委縮し、また骨からはカルシウムが失われ脆くなる。宇宙に行かなくても、これと同じ様な現象を日常的に経験している。例えば、足を骨折しギブスをはめると足の筋肉は極端に委縮する。寝たきりのお年寄りは、筋肉の萎縮と同時に、骨からカルシウムが失われるオステオポロシス(骨粗鬆症)になる。また寝たきりにならなくても加齢とともにこれらの変化は表れる。これらの現象は微小重力による影響と考えられないだろうか?宇宙飛行士の体に見られる変化は老化現象に極めて似ており、宇宙飛行士の身体を調べることはフレイルを解明することであり、強いて言えば、如何にすれば老化を抑えることができるか?に通じる。もし、お年寄りの身体の中で起こる変化が、重力適応反応の低下と考えることができるならば、逆に重力をかけることで防止できないだろうか?また、宇宙食の開発は、老化の予防食の研究につながるのではないか。

誰しも、フレイル状態で長生きするよりも、健康で動ける老人として長生きしたい。運動とは重力に逆らうことであり、宇宙実験から高齢社会での我々の在り方が解明されるかもしれない。

静岡県立大学名誉教授
農学博士  横越英彦   著

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