〈食と美と健康〉緑茶は風邪に良いの?―体調調節にビタミンC
現在の日本では、ビタミンC不足による壊血病は皆無といえます。それは壊血病防止のためには1日10mgのビタミンCがあれば十分なのですが、普段はこの10倍近くを食事から摂取しているからです。一方、ビタミンCに風邪を予防する効果はないということが明らかになりました。それは、2012年に過去のすべての研究データをまとめてビタミンCの効果が解析され、総括として、ビタミンCに風邪予防の効果はなかったという結論に達したのでした。前月号で記したノーベル賞受賞者の発言は影響が大きいですね。
なぜ、ビタミンCは必要か?
多くの動物は、ビタミンCを体内で合成するが、人間、ベンガルザル、モルモットなどは合成できないため、ビタミンCを含む食物を食べなければなりません。牛、豚、ネズミ、ニワトリなどは人間と同様に他の各種ビタミンを必要とするのに、なぜビタミンCだけは合成できるのでしょうか。このことは動物の進化と関係があるようです。動物は、体に必要な成分を、食物として取り入れるか、体内で合成して補っています。それが出来なかった生物は絶滅したのです。この場合2つのことが考えられます。すなわち、必要な成分が食物から十分に摂取できる場合、その成分を生合成できる生物と出来ない生物とでは、生存においてどちらが有利であるかという点であります。研究結果によれば、生合成するには生体にかなりの負担をかけるので、合成できない生物の方がはるかに有利でした。地球上に生命が誕生した初期の段階では、原始動物たちは栄養分を豊富に含んだ緑葉植物を主食としていたのでしょう。人間の祖先たちは何千年もの間に、栄養分を食物の形で外から取るようになり、体内での生化学的機能は単純化されてきたと見られています。ビタミンCを十分に含む食物を摂取できる環境で生活していた2500万年前に突然変異が集団の中で起こり、各種ビタミンの合成能力を失うとともに、ビタミンC合成能も人間の祖先は失ったと思われます。その際、なぜ人間やサルではビタミンC合成能を失い、牛や馬では合成能を失わなかったのか。定かではありませんが恐らく、ビタミンCだけは、動物たちが最適な健康を保つためには餌となる緑草類だけからの摂取では足りず、合成能力を保持したと思われます。
お茶と風邪との関係は?
ビタミンCと風邪には相関がないという論文は確からしいです。ただし、風邪に対する抵抗力は、ビタミンCの摂取量が増えるにつれて増すようですが、お茶の飲用による摂取量よりはるかに多いので、影響がないといえます。ただし、ビタミンCは、体調を整える意味で多くの生理機能を有しており、また、緑茶にはカテキンのようにインフルエンザの感染を予防する作用、抗菌作用なども明らかにされているので、総括として、お茶の飲用は勧められると結論付けて良いかと思います。「お茶は飲むマスク!」と言っても良いかも、です。
〈2022年5月 / 茶柱コラムより :旧竹沢製茶HPに掲載分〉
静岡県立大学名誉教授
農学博士 横越英彦 著
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